中国書画を身近に感じられた企画展「住友コレクションの明清書画」
住友家が蒐集した美術品を保存、展示する美術館、
泉屋博古館(せんおくはくこかん)。
京都の丸太町通を東に進んだ山ふところの鹿ヶ谷にある。
以前、雑誌で見て気になっていた「安晩帖(あんばんじょう)」が
展示されるというので、はじめて訪れた。
「安晩帖」は、八大山人(はちだいさんじん)が描いた20図からなる画冊。
重要文化財に指定されている。
八大山人(1626〜1705年)は、明時代の末から清時代の初め、
明末清初(みんまつしんしょ)を代表する個性派文人。
書、詩、画に秀でた人物と伝わる。
もとは明の地方王族の末えいで、官僚として生きようとしたところ、
清に時代が変わり、生き延びるために20歳で禅門に出家。
五十代に発狂し、のちに書画三昧の日々を過ごしたとされる。
安晩帖は、1694年、八大山人が69歳で描いた晩年の傑作。
今回展示されていたのは、2篇ある魚図のうちの一つ、「ケツギョ図」。
色紙(しきし)より一回り大きいくらいのサイズの中央に泳ぐケツギョ。
浮いているのか、あるいは沈んでいるのか。
ギョロ目の三白眼は何を思うのか。
見る人の数だけ解釈がある、自由に感じてよい懐の深さがあるのだろう。
すき間を嫌う中国の書画にあって、これほど余白をとった作品は、
ほかに例がないのだそう。
ケツギョは湖に棲む淡水魚。
「帖」とは、折り本のことだと初めて知った。
画に添えられていた詩もよかった。
この画を見たときに浮かんだのは、
スティーブ・ジョブズのデザイン哲学を支えたといわれる言葉
「洗練を突き詰めると簡潔になる」
もとはレオナルド・ダヴィンチによる格言とされる。
目をじっと眺めていると立体的に見えてきて、
目玉おやじを思い出してしまったた。。
きっとそんな見方も許してもらえるだろう。
今回はレプリカの「安晩帖」が展示されているのがおもしろかった。
ずっしり重い帖を手に取り、頁を繰ると、犬やネズミ、カラスと思われる動物や
小さな魚、さまざまな草木が墨で描かれた世界が広がる。
リズミカルで頁をめくる楽しさがあり、今でいうグラフィックデザインとしても
優れた作品なんだということがわかった。
レプリカ製作は、青森の帆風美術館のデジタル技術により実現したものだという。
会場には明時代の終わりから清朝の初めにかけての激動の時代に描かれた、
中国の優れた絵画、書画が展示されていた。
今回は「安晩帖」が気になって、ほかの作品について入ってこなかったけれど、
それはそれでよしとしよう。
作品については列品解説と展示のキャプションを参考にした。