なずなノート

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「千家伝来の茶の湯釜」

 平成26年春季特別展 開館十五周年記念

「千家伝来の茶の湯釜」大西清右衛門美術館
2014年6月
 
千家十職(せんけじゅっしょく)の一つ、釜師である大西家の美術館開館十五周年記念展。
 
選りすぐりの茶の湯釜が集められた、
きっとめったにない展覧会。
 
 武者小路千家官休庵所蔵の「利休好 湯の釜」や裏千家今日庵所蔵「宗旦好 口四方釜」、
表千家不審庵所蔵の「利休好 唐金皆具(水指・杓立・蓋置・建水)」といった、
各御家で守り伝えられた品々が並ぶさまは、
オールスターキャストのよう。
 
なかでも気になったのは、2点。
どちらも今に通じるストーリーを語る釜である。
 
如心斎好 責紐釜(じょしんさいごのみ せきひもかま)」。
18世紀 江戸時代 作者は六代大西浄元、表千家不審庵所蔵
 
貴人に茶を献上する際に、口の近くに付いた鐶付(かんつき)にこよりを通して口を封印したことから、責紐釜の名前が付けられたとされる。
 
大西家六代・浄元(1698ー1762)が、表千家七代家元・如心斎(1705ー1751)から託された
古鏡を蓋に見立て、蓋に見合う釜をあつらえたとされる。
 
もう1点は、「一燈好 鏡釜(いっとうごのみ かがみがま)」。
1755(宝暦5)年 江戸時代 作者は同じく六代大西浄元、裏千家今日庵所蔵
 
一燈(1719ー1771)は、裏千家の八代家元。兄は表千家七代の如心斎
こちらも兄と同様に蓋に合わせて釜が作られたという。
 
蓋には「心有明鏡臺」の文字がある。
この蓋は、もとは一燈の母であり、表千家六代家元・覚々斎の妻である秋から伝えられた鏡だという。
 
鋳込まれた文字は、秋の実父である表千家五代家元・随流斎によるもの。
 
登場人物の肩書きがいろいろで複雑そうだが、
つまり、おじいちゃんの文字が刻まれた鏡をお母さんから伝えられ、
その鏡を大事にしようと、鏡を蓋に見立てて釜をあつらえ、後世に伝えた、というところか。
 
物言わぬ釜に、作る人や作らせた人の思いが込められていること、
そして大きな釜の一部分である蓋から、釜全体のつくりを発想すること。
それらは300年ほど経た現在でも、
ちっとも古びない。
物が語るストーリーは、今も健在だと感じられた。
 
ほかには、家元自筆の「好日」の文字とコマの絵付けがされた「即仲斎好 好日釜」、
元気な伊勢海老が躍る「有隣斎好 宝珠釜 海老鐶付」なども展示されていた。
 
今展からか、出品目録が配られるようになったのは有り難い。
三千家歴代と大西家の系譜がはさまれていたのも、
誰がどの時代を生きたかを確認できて、
作品のいわれを理解する手助けとなった。