なずなノート

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「酒井抱一の短冊で1年を楽しむ」湯木美術館 平成26年夏季展

 「酒井抱一短冊で1年を楽しむ ー待合掛けと茶会の道具たちー」湯木美術館 平成26年夏季展


夏らしく軽やかで、さわやかな心地がする展示だった。

酒井抱一(さかい ほういつ)の短冊を中心にした展覧会。

今回は時間が限られていたので主に短冊を見学した。


抱一は、江戸時代後期に活躍した、琳派の画家。

夏と秋の野の風情を対照的に 描いた「夏秋草図屏風(なつあきくさずびょうぶ)」(東京国立博物館蔵)が

最高傑作とされるが、今展で披露されるのは、一年間の情景を絵と句にした12本一組の短冊


淡彩で季節をあらわす絵画と、季節感豊かな俳句、

そして自作の句をのびやかに書いた書。

それらすべてが抱一自身によるものだ。


12の作品を目にすると、短冊という限られたスペースの中に

句と画、落款を自由に配し、表現を広げようとした試みが見てとれる。


たとえば、8月の短冊「夕立や」の句は、

「夕立や はれ間はれ間の まつの月」。

下部に松だけが描かれていて「あれ、月は?」と見上げると、

短冊の真ん中あたり、句の背景にぽっかりと月が描かれているという具合。


あるいは、2月の「梅一里(うめいちり)」。

「梅一里 それから先は波の音」という句にあわせる画は、

白い梅が咲く梅林と、S字状だったかその逆の形だったかの緑のたなびきのみ。

それで梅林の先にやわらかな風、青空とともに海が広がることを伝えるという。


もともと短冊は、茶室に入る前に、茶会に招かれた客が集まる小さな座敷「待合(まちあい)」で掛けられることが多い。

茶会の主題は、茶室の掛け軸に託されるわけで、

待合ではこれから始まる茶会への期待を高めつつ、

あくまで引き立て役として主に短冊や色紙といった気軽な作品が用いられる。


抱一の短冊が前座として待合に掛かっていたら、

メインキャストとなる茶室の掛け軸は何が来るんだろうと恐れ多い気もするが。

さらっと描いた画と優美な筆致の句からなる作品を一年分ぐるりと眺めるのは、

そこはかとなく客へのもてなしや抱一の洒脱さを感じ、

茶会に招かれた客にでもなったように気分のよいものだった。


以下、12か月分の句をご紹介。


4月「鷺白して青田はあをし 筑波山


5月「アの声は 嬉の森か ほとときす」


6月「朝顔の あしたまたるゝ つほミ数」

 

7月「なまめかし 軒の燈籠

 

8月「夕立や はれ間はれ間の まつの月」

 

9月「雁も田に 居なしむころや 十三夜」


10月「口切や 南天あかし んめしろし」

※「んめしろし」は「梅白し」の意。

 

11月「狩衣(かりぎぬ)に 雪を担(になふ)や せせのわたり」


12月「此(こ)のとしも きつね舞して こへにけり」


1月「初ゆめや まつ一富士とふて始(はじめ)」

 

2月「梅一里 それから先は波の音」

 

3月「入相(いりあい)の かねもくれ行く花の中」

 

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