なずなノート

お茶や暮らし、映画、日々の発見をぼつぼつと、ぶつぶつと

450年前に作られた茶釜の音にときめく「ニュイ・ノワール 夜咄」大西清右衛門美術館

 織田信長に仕えたとされる釜師が450年ほど前に手がけた

茶釜の音を、いま聴ける不思議さよ。

「ニュイ・ブランシュ(白夜祭)KYOTO2014」の会場の一つ、

大西清右衛門美術館でのこと。

 

「ニュイ・ブランシュ(白夜祭)」は、パリで毎秋開かれる

一夜だけの現代アートの催しで、

姉妹都市である京都でも同じく一夜だけ日仏の現代アート

無料で楽しめるのだそう。今年で4回目だとか。

 

大西清右衛門美術館では、この夜だけの「ニュイ・ノワール | 夜咄

Nuit noire yobanashi:'A dark night's tea gathering」が開かれた。

 

7階の茶室のフロアに上がると、ところどころに和蝋燭(ろうそく)が灯されている。

エレベーターから出ると、一瞬真っ暗に感じるが次第に目が慣れてくる。

「第一の茶室」ではガラスの向こうに茶道具が展示されている。

 

普段は入れない「第二の茶室」へ。

にじり口から入ると、床の間にサウンドインスタレーション

「音を採集した3つの釜」と題して、この地・三条釜座で作られた名釜を三つ取り上げ、

その煮え音を聞こうという趣向である。

 

その名釜とは。

「蓬莱山釜(ほうらいさんがま)」は、約450年前に作られたとされる。

武野紹鷗(たけのじょうおう)や織田信長の釜師と伝えられる

西村道仁(どうにん)の作。

 

阿弥陀堂釜(あみだどうがま)」は、約400〜450年前に作られたもの。

こちらは千利休の釜師として知られる、辻 与次郎の作。

 

もう一つは、大西家の初代、大西浄林(じょうりん)による

「霰乙御前釜(あられおとごぜがま)」。

浄林は、織田有楽(信長の弟)や古田織部小堀遠州の釜師をつとめたとされる。

 

そんな錚錚たる名釜の音と、タブレットに映した茶釜や赤い火の映像を鑑賞する。

インスタレーションを手がけるのは現代の作家で、

映像が吹田哲二郎、サウンドが南 琢也だそう。

 

ここが待合(まちあい)でもあり、しばらく煮え音を聞いているうちに

呼ばれて「第三の茶室」に入る。

そこでは大西家十六代目の当代が薄茶を点ててくださる。

炉に掛けられているのは、「蓬莱山釜」! 先ほど音を聞いていた名釜だ。

450年ほどに作られたその釜に出合えるとは。

 

和ろうそくのもと、釜の姿かたちはよく見えない。

でも松風(まつかぜ)と称される、釜の湯が煮える音は、よく聞こえる。

ご当主が湯をすくうと一瞬、静寂が訪れ、すぐに松風が音を立てる。

この音を何と表現するのか。

はげしい、勢いのある、荒々しい。

音を記憶しているわけではないが、印象としてはそんな感じ。

当代によれば「先に来られた方は、雷のような、雨音のようなと

言われる方もあった」のだそう。

 

歴史上の品として鎮座するだけでなく、長い年月を経たいまにも生きた音を発する釜。

銀皿に2粒のせられた菓子は、松風にちなんで「松の子」。

 

そして床には当代が撮影した真っ赤に溶ける鉄の写真。

1300度に満たない程度の温度との解説。

さらに初代浄林作の「霰乙御前釜」が、どっしり置かれている。

 

屏風の前には「阿弥陀堂釜」も。

おぼろな灯りのもと、夢のような三つの釜とほんの少しだけでも

同じ時間を過ごさせてもらった。

 

ごくたまに、びっくりするくらいに

時間と空間を超えた出合いに恵まれることがある。

これだからお茶への興味は尽きない。

 

7階から降りるエレベーターに乗ると、

照明がやけにまぶしくて目をそむけてしまった。

短い時間を過ごしただけなのに感覚が変わるふしぎ。

 

 

 

2014年10月4日 大西清右衛門美術館

ニュイ・ブランシュKYOTO2014

http://www.nuitblanche.jp/