なずなノート

お茶や暮らし、映画、日々の発見をぼつぼつと、ぶつぶつと

散歩と読書の達人「開館20周年 植草甚一スクラップ・ブック」

 

 なかなか真似はできないけれど、お手本にしたい存在。

それが植草甚一。ニックネームはJ・J氏。

 

明治41(1908)年、東京の日本橋に生まれ、東宝の社員を経て

映画や読書、ジャズ、散歩をこよなく愛し、コラムやエッセイを綴った自由人。

昭和54(1979)年に他界した後も、そのスタイルは色あせることなく

今見てもかっこいい。

 

世田谷文学館の「開館20周年記念 植草甚一スクラップ・ブック」は、

全部で8つのカテゴリーに分かれている。

 

1.プロローグ それでも自分が見つかった

2.映画 映画だけしか頭になかった

3.文学 雨降りだからミステリーでも勉強しよう

4.音楽 モダンジャズは皮膚芸術

5.コラージュ 衝突と即興

6.雑学 ぼくは散歩と雑学が好き

7.ニューヨーク ぼくのニューヨーク地図ができるまで

8.ライフスタイル 何か売っている場でないと散歩する気がおこらない

 

この並びだけで十分楽しい。

カテゴリーごとに原稿やノート、写真、書籍などボリューム満載に

J・J氏の全容を伝える展覧会だった。

 

気の向くままに散歩して買い物して、であれば誰でもできる。

J・J氏がちがうのは、「勉強」と称して

好奇心いっぱいに学び続けたところなんだろう。

 

たとえば、展示されていた手書きのノートにこんなものがあった。

・映画に関する専門用語を書きとめた手製の英英辞典

・小説のあらすじと感想を書いたノート

・ジャズに夢中になってからは、リング式のノートに

アルバムの内容、感想、星3つとか4つの記述

・戦後イタリア文学の概況と作家についてのノート

・映画の試写メモ

・フランスの文献をもとに、イタリア映画の歴史と作品について

詳細を書き記したノート

 

膨大な資料から見えてくるのは、

入試のためや学校や資格試験のためにするものとはちがう

自分のアンテナに引っかかったあれこれを、のびのびと勉強する姿である。

 

 また今回初めて知ったのは、明治生まれのJJ氏は世の時勢にとらわれず

独自のスタイルを貫いたこと。

1945年、新宿文化劇場の主任であったときの日記には

空襲の記録とともに、古本屋で買った本や読んだ本も記録されていたという。

それは後の1960年代や70年代の日記と変わらない。

 

軍国主義な時代の空気のなかでも自分を見失わず、

好きなものに対する姿勢を貫いたJJ氏は、

高度経済成長の時代だからといって、スタンスを変えることもなく、

その後も社会状況がめまぐるしく変わるなかで、マイペースで歩いた。

 

そんな気骨のある生き方は、遠いあこがれ。

鉛筆や万年筆で書かれた手書き文字を追っていると、

しみじみとうれしくなった。

東京に滞在中の二日間通い、あわせて4時間ほど滞在した。

 

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