なずなノート

お茶や暮らし、映画、日々の発見をぼつぼつと、ぶつぶつと

映画『ショート・ターム』

 冒頭とラストに同じような、ちょっと風変わりな場面が出てくる。

初めは「なんだ、これ!?」と驚いたものの、

1時間半ほどこの作品と付き合ううちに

最後のシーンは「なるほど、そういうことね」と納得。

無茶をしても追いかけてくれる人のいる有り難さを思った。

 

 十代の少年少女が安全に生活できるようケアする

短期保護施設「ショート・ターム12」が作品の舞台。

 

ケアマネージャーとして働く20代のグレイスは、

同僚のボーイフレンド・メイソンと暮らし、子どもを身ごもる。

これをきっかけに何もかもうまく行きそうになったところ、

誰にも打ち明けられない心の闇が幸せに待ったをかける。

 

入所当初、大人を拒絶するジェイデンに「今は嫌ってもいい。待ってるから」

とやさしく声をかけるグレイスは一方で、恋人のメイソンから

「悩みを話すのがどんな大切か気づくことを3年間待っていた

(でも気づいてくれなかった)」と告げられるほど、

心を頑なに閉ざす一面をもつ。

 

そんな状況から彼女の背中を押し、心を開いていく力となるのが

知的でやさしい少女ジェイデンやつらい気持ちを人形に託す少年サミー、

ピュアで繊細なマークスといった施設に暮らすティーンエイジャーたちである。

彼らはみな、虐待やいじめ、育児放棄などつらい経験をもつ。

そしてグレイスも同じく。 


ケアをする人される人、どちらが偉いわけではなく

ともに支え支えられ、ぶつかりながら一歩ずつ歩いて行く。

そのあたりが大げさでなく、ていねいに描かれていて

一人ひとりの人となりが静かに染みいる。

 

簡単にはいかなくても、寄り添ってくれるひとがいたり、

自分も誰かに寄り添うことができたり。

たとえ今の状況が違っても、そうありたいと願う希望が感じられる、しみじみとよい作品だった。


この映画の名脇役といえるのが、自転車だ。

「フロイド」と名づけられ、メイソンから妬かれるほど

親密な関係といえるグレイスの愛車は、つらい時もうれしい時も

いつも一緒。

ジェイデンを救うために二人乗りだってする。

自転車だって立派な相棒なんだという気がする。

この作品は世界じゅうで30もの映画賞を受賞したという。

 

2014年12月、元町映画館で鑑賞。