なずなノート

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映画『あっちゃん』見て笑って泣いた

 あっちゃん。
50歳男性、独身。ピエロのメイクをしたパンクロッカーに、
親しみを込めてそう呼びたくなる。

2014年にバンド「ニューロティカ」が結成30周年を迎えたのを機に
制作された映画『あっちゃん』。
30年間続けた唯一のオリジナルメンバーであり、ヴォーカリスト
イノウエアツシこと“あっちゃん”を追ったドキュメンタリー作品である。

ニューロティカというバンドを知っているか、
彼らの音楽が好きかどうかは、どちらでもよい。
ここで描かれているのは、なんてことないように見えて実は誰も真似できない日々を
ひょいとやってのける、あっちゃんの生きざまだ。

バンドのフロントマンであるあっちゃんは、 ライブがない日は
実家の東京・八王子のお菓子屋「ふじや」の若旦那として働く。
ライブの翌日だって朝5時過ぎから仕入れに出かける。

お母さんとお菓子屋を切り盛りする素顔のあっちゃんと、
ピエロのメイクをしてステージに立つあっちゃんを半々に、
本人、家族、歴代のメンバー、スタッフ、
誰もが知るミュージシャンたちのインタビューをはさむ。

1980年代から90年代初頭に起きたバンドブームのころの生々しい話は、
こんなにぶっちゃけてもよいものかと
どきりとした。

何より登場する面々の「あっちゃん愛」がハンパない。
とはいえ、みなさんの話すあっちゃん像の断片を集めたら
実像がつかめるかというと、そんなこともない。
とらえどころのないまま。

それでもだれかが話していた、
「あっちゃんの人柄と笑顔で、一度出会った人とずっと仲良くする」
「まわりから人がいなくならない」
そんな魅力はしっかり伝わってきた。

印象に残っているのは、ヴォーカルのレコーディングの
模様を撮影したシーン。
リズムも音程にも満足いかないあっちゃんは、
ほかのメンバーに迷惑がかかるからとバンドを脱退することを考えたりする。
オリジナルメンバーなのに。

 山場はラスト間近に来る。あっちゃんの語り。
1度目に見たときはボソボソと話す声を聞き取るのが精一杯、
2度目は知った名前を確認し、ほろり。

笑って泣ける映画だった。
それはピエロ姿のあっちゃんに重なる。
どこにもいないパンクロッカーの生きざま、かっこいい!

といっても、映画で描かれているのは、きっとほんの一面。
パンフレットには「裏あっちゃん」のかけらも
ちょいちょい見られて、そこも興味深い。
バンドブームの浮き沈みを経て、度重なるメンバーの入れ替わりにもよらず、
一度も休止することなくDIYで30年も音楽を続ける歴史は、だてじゃない。

清濁、いや清だけじゃなく聖も性も濁も酒とともに流し込んで、
ぐいぐいぶっ飛ばしてほしい。

2015年5月、シネマート心斎橋で鑑賞。