能楽堂に行ってみた
能の舞台を見る機会があった。あの伝統芸術である。
言葉や節回しは当時の様式をとどめているのだという。
初めて足を踏み入れた能楽堂は、なんとも贅沢な印象だった。
建築のなかにもう一つ建築が作られたような能舞台、
マイクや音響装置のない中で客席のすみずみまで声や音色が届く
空間のすばらしさ。
舞台に登場するのは、大きく分けて3つの演者たち。
役に扮する立方(たちかた)と声楽をうたう地謡方(じうたいかた)、
器楽を演奏する囃子方(はやしかた)だ。
3つの演目で舞台に上がる人数は、のべ30名を超える。
金銀糸でさまざまな文様を表現した唐織(からおり)の装束や
演者の顔の角度で表情を変えるという面まで、じっくり拝見したいお宝ばかり。
じっくり鑑賞したいと思ったものの、まったくの初心者にはハードルが高かった。
決してつまらないのではない。いや筋も舞台の美しさも興味津々である。
ああそれなのに、うかつにも眠気に誘われて、何度も気をうしないかけてしまった。
今を生きる身には幽玄すぎて気持ちよすぎて、つい。
事前に予習をしておけばよかったのかもしれないけど、もう遅かった。
補助席も出るほど盛況の客席には、おそらく300名以上がいただろう。
一回の舞台のためには、どれほど稽古が積み重ねられたのだろう。
いや卑近な年月ではなく、その背景には600年以上つづく歴史があり、
その都度ライブで演じられてきたことを思うと、計り知れない。
そんなことをアタマの中でめぐらせつつも、身がついていかなかったのは情けなし。
せっかくのお宝を今の時代に引き寄せて、
もう少し気軽に楽しめる方法はないものか。