じわじわと魅力が伝わる映画「女っ気なし」「遭難者」
冬のうら寂しい景色が広がる、フランス北部ノルマンディ地方の港町・オルト。
パリから日帰り自転車旅行にやって来たリュックは、
不運にも一日に3回も自転車がパンク。
途方にくれているところに助け舟を出したはずの地元に住む男・シルヴァンの鈍くさい行動により、
自転車を乗せて帰るつもりだったパリ行き最終電車を逃してしまう。
小さな町では土曜の夜に開いている店もなく、
やむなくリュックはシルヴァンの家を訪れる。
シルヴァンは、小太りで髪が薄くてボサボサで、でもほっぺたが紅くて人の良さそうな男だ。
2人は飲むうち、すっかり打ち解け、人に話さないようなことも語り合う。
翌朝、シルヴァンのおせっかいぶりがあらわれるのだけど。
というのが、25分の短編「遭難者」。
少々悪ノリが過ぎるように見えたシルヴァンだが、
同じく主人公として同じ町を舞台に登場するのが、続く中編「女っ気なし」。
こちらでは、シルヴァンのいい人かつ不器用っぷりを、より堪能できる。
季節は一変。オルトが唯一輝く、夏のバカンスシーズンだ。
美しい母娘、パトリシアとジュリエットが一週間ほどバカンスを過ごしに来た。
彼女たちが過ごすアパートを管理しているのが、どうやらシルヴァンらしい。
2人と海で遊んだり、ホームパーティーで盛り上がったり、
まぶしいほどキラキラした時間を過ごす。
美しい女性と一緒にいると、自然と淡い恋心を抱いたりして。
でもそんなにうまく行くわけもなくて。
それでも、パトリシアもジュリエットも、「遭難者」のリュックも、
出会ったばかりなのに、シルヴァンには胸の内を明かし、何でも話せてしまう。
それが彼の大きな魅力。
時々イラっとしながらも、じわじわとその、いそうでなかなかいない個性に惹かれていく。
フワフワと浮かれる感情が描かれる一方、
時折はさまれるのが、シルヴァンの孤独をあらわす情景。
暗い部屋で一人、テニスのゲームに興じたり、母娘が過ごすアパートを見上げたり。
そんな時間があって、シルヴァンのほんわかした空気ができているのかな、なんて感じさせる。
夏が終わると、きっとまた孤独な生活に戻る。
そうであっても、反すうできる温もりの記憶があるってだけで、
以前とまったく同じ孤独ではない、のかもしれない。