映画ファンの夢!? 450作品を編集した「ファイナル・カット」
映画好きなら一度は考えるかもしれない。
「好きな映画の断片を集めたら、作品が一つできるんじゃないか」と。
そんな妄想を緻密かつていねいに形にしたのが「ファイナル・カット」だ。
新旧の有名な映画450本のカットが詰まった作品がどんなものか気になり、出かけてみた。
今年で20回目という「大阪ヨーロッパ映画祭」に、遅ればせながら初めて参加する機会にもなった。
男女が出会い恋に落ちて、幸せな結婚に至り、
やがてすれ違い、別れを迎える。
いつの時代にも繰り返されるストーリーの断片を集めて、一つの物語が紡がれる。
この映画を手がけたジョルジュ・パールフィ監督と脚本のジョーフィア・ルットカイ夫妻によると、
「人間の行動は、だいたい30〜35種類ぐらいで、
食べたり話したり、シンプルなことに集約される」のだという。
なるほど。
映画のシーンを追うと、そのシンプルな行動の種類というのが見えてくる。
例えば、こんな感じ。
雑踏で男と女がぶつかり、男は一目惚れする。
人混みをかき分け女性を追いかけると、
クラブのショーに行き着く。
楽屋の扉を開くと歌い手である女性がいて、
二人で外に出て、車で送る。
翌朝、女が目覚めて身支度をして公園でデート。
その後、ディナー。
そんなふうに恋して愛し合って結婚、妊娠。
さらに妻が浮気をしているのではと夫が疑心暗鬼になり、
やがて夫は兵役に出て別れの時を迎える。
そんなストーリーが、時々もとの映画のセリフをはさみながらどんどん進んでいく。
それも、めくるめく映画スターが登場するシーンの連続で!
ものすごくたくさんの映画の、同じシーンをつなぎ合わせているんだけど、
初めて見た者としては、そのつながり方というかリズムが自然で、
あっという間に終わった感じ。
何度か繰り返し見るうちに、発見することも多そうだ。
とくに印象に残ったのは、オードリー・ヘプバーンをはじめ
女性が朝、目覚めるシーン。
美女の目覚めは、ほんとに美しいものだ。
美女が自転車に乗る、男が階段を登る。
女性が年上の同性に相談を持ちかける…、このシーンでは笑いが起こったけど、
日常の何気ない一コマであっても、
趣きの違いがさまざまあり、味わい深い。
また電話のシーンも多く登場した。
電話をかける男と電話を待ち焦がれる女。
ベルが鳴ったら飛びつく女、
電話を切った後の男の背中。
携帯電話の今となっては、電話のシーンが印象的な映画はこれから生まれづらいかもしれない、と思った。
時計についてもそう。
カチカチと存在感を放つ時計もいくつも出てきて、
物言わずとも何かを伝える時計も立派な小道具なのだと。
携帯電話で時間を確かめる者としては、ちょっと身につまされる気も。
本作を企画するにあたり、パールフィ夫妻は 、このように進めたのだそう。
2000〜3000本の映画リストから500本をセレクト。
男と女が登場するロマンチックな作品を選び、
次に映画の歴史の中で重要な作品を取り上げ、
最後に自分たちの好きな作品を加えたのだとか。
制作時に心がけたのは「映画として一つの物語であること」と
ただの寄せ集めではなく「感情をもった作品にする」ということだという。
結婚式で拍手するシーンで、ほんの一瞬だけ映った「道」のジェルソミーナも、
監督夫妻の名作へのオマージュだったのかな。