笑えるサイレント映画「淑女と髭」
小津安二郎特集の三本目は、「淑女と髭」。
1931年製作の無声映画だ。
ほっぺた一面に生やした無精すぎるヒゲのせいで、
就職も恋もうまくいかない大学生の岡嶋が主人公。
男爵家である親友の妹の誕生パーティーに行っては
その風貌から煙たがられ、
就職試験ではことごとく落とされる。
いわくつきの男女三人組にからまれたタイピストの女性、廣子を助けだしたりと、
岡嶋は「いいヤツ」ではあるが、何もかもさっぱりうまくいかない。
そんな時、廣子からヒゲのせいで就職試験がうまくいかなかったことを諭され、
ついに髭を剃ることに。
ジャジーン! すると、髭で隠されていた二枚目の顔があきらかになり、
一転モテモテに!
ホテルへの 就職が決まり、恋もうまくまわりはじめるという、
笑いどころたっぷりの喜劇。
岡田時彦演じる岡嶋は、三人の女性に好意を寄せられる。
男爵の妹と、気のいい町の娘さんの廣子、廣子をゆすろうとしたモガと、個性豊かな面々。
リンカーンの教えに従い、女性を遠ざけるために髭を生やしていた岡嶋だって、
もてたらちょっとは気が緩む。
そんな彼の心情を表すような、最後の字幕が秀逸。
「剃っても剃っても 生えてくるのは髭である」
最後に、劇場がドッと沸いた、笑ったシーンをいくつかご紹介。
昭和6年の観客と、同じシーンでわらっているのかもと想像すると楽しい。
・誕生パーティで、男性陣がいなくなろと、すごい勢いで飲み食いする良家の女子たち
・同じくパーティで、女性から「御一緒に踊りませう」と誘われた岡嶋が、
いきなり刀を出して歌舞伎みたいに大見得を切ったりして、
女子たちに唖然とされるシーン
・廣子の家に上がったものの靴下を履いておらず
ズボン下でごまかしながら、その場をやり過ごすシーン
・家を訪ねてきた廣子に座布団を出そうとしたところ、表も裏もボロボロで、新聞紙でくるんで一件落着とする…
当時28歳だった、若き小津監督のギャグセンスにすっかりつかまれてしまった。
もとは弁士の説明つきだったんだろうけれど、
時折はさまれる字幕だけで、ストーリーと
およその会話が想像できる。
サイレント映画を見るのは初めてで、
より集中して見るかんじが新鮮だった。
シネ・ヌーヴォ 入口に、めだかの棲む鉢があったので、パチリ。