なずなノート

お茶や暮らし、映画、日々の発見をぼつぼつと、ぶつぶつと

日曜の朝に見に行った小津作品「お早う」

 シネ・ヌーヴォで開催中の特集上映「生誕110年・没後50年 小津安二郎の世界」、

東京物語」に続いて見に行ったのが「お早う」。

 

 高度経済成長のまっただ中。

大人と子どもの日常をスケッチしたような、1959年製作の映画。

 

 舞台は東京郊外の新興住宅地で、

同じような形の家が並ぶ地区。

笠智衆演じる林啓太郎と三宅邦子演じる民子夫妻と

長男の実と次男の勇という男の子2人、民子の妹・節子の5人家族を軸に、

テレビを思いっきりほしがる兄弟のもとに、

ようやくテレビが届くまでのストーリー。

 

 特別大きなことは何も起こらないけれど、

昭和30年代当時の中流、それも少しだけ上のほうと思われる

人々の暮らしが、細やかに描かれている。

 

婦人会の会費の支払いをめぐる、ちょっとしたゴタゴタ、

水商売と思われる若夫婦の家にテレビを見に行くことを

親たちがやきもきしたり、

悪気のないうわさ話がちょっとした波紋を広げたり、

テレビを買ってもらいたいのに買ってもらえない子どもたちが

小さな反発を起こしたり。

 

会社勤めが広まるなかで、

目の前に迫った「定年」に思いをめぐらせるお父さんや、

淡いロマンスの香り漂う若者が登場したりもする。

 

  テレビを買ってほしいとねだる子どもたちがあまりにうるさくて、

父に「だまれ」と叱られる。

 

すると「大人たちこそ、無駄なことを言ってる。

お早うございます、いいお天気ですね、あらどちらへお出かけ?

ちょっとそこまで、それはよろしいですね」……、と返す。

それで大人がイラッとするのがおかしい。

 

ウイットに富んだ会話も楽しく、

英語を習う小学生の勇が、去り際に「I love you」と

言ったりするのもかわいらしい。

 

電気洗濯機を月賦で買う時代、

テレビなんて高嶺、というより高値の花だったことがわかる。

 

酒席でテレビについて談義する父が、

「テレビは一億総白痴化のもと。世の中、便利になると、かえってあきませんかな」と話す。

 

今の時代を生きる 自分は、それに反撃できるのかな?

 

テレビどころかスマートフォンも購入し、

ネットに頼りがちな自分にとっては耳が痛く、

身の置き所がないほど。。。

 

 家で大人三人がちゃぶ台を囲んで、それぞれ別の本を読む光景なども、

今じゃあ、なかなか見られない気がする。

 

また、子どもたちがムダだと言った大人の会話は、今でも健在だ。

「今日も暑いですね」

「暑いですなあ」

「しばらく雨が降らないみたいですね」

「そうみたいですね」……。

 

今日もこんな会話をコーヒーショップで耳にした。

英語教師役の佐田啓二が言う「そんな会話が潤滑油になっている」

というのも納得。

 

そういう意味でも、いつ見ても色あせない映画なんだと思う。

 

 

シネ・ヌーヴォは、たしか劇団の「維新派」が内装を手がけた空間。

外観も雰囲気がある。

 今はちょうどオレンジ色のノウゼンカズラが見頃だった。

 

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