二度目の「かぞくのくに」
動かしがたい現実のまっただ中にあって、
それでも家族の情が伝わってくる映画。
今も家族が北朝鮮に暮らす、ヤン・ヨンヒ監督の実体験をもとにした「かぞくのくに」。
1959年から20数年間にわたり、
在日コリアンの北朝鮮への集団移住「帰国事業」がすすめられた。
1970年代に「帰国事業」で北へ渡った
兄ソンホも、その一人。本人の意志ではなく、
協会幹部の父の面子を立てての移住ではあるが。
25年を経て、病気治療のため初めての帰国を許される。
滞在期間は、3か月のみ。
帰国を心待ちにしていた妹のリエ、父=アボジ、母=オモニとともに、
25年ぶりにソンホは家族団らんを過ごす。
同級生たちとの再会、初恋の女性とのひとときを楽しむものの、
病状は良好ではなく、3か月での治療は無理だと医師に告げられる。
そんな時、無情にも明日ピョンヤンに戻るようにとの連絡が入る。
絶対服従しかない本国の指令の前に、家族であってもどうすることもできない……。
以前この映画を見た時は、そこで描かれていることを追うので精一杯だったけど、
二度目はあらすじがわかる分、感情の機敏を味わえたように思う。
たとえば、今回印象に残ったのは、ソンホが日本に到着し、
車で自宅に向かう冒頭の場面。
自宅の手前で「ここで停めてください」と、ソンホは車を降りて歩きはじめる。
商店街の店先を眺め、街の喧噪、虫の鳴き声、鐘の音なんかを感じながら、
25年の空白を埋めようとしているのだろうか。
とぼとぼと歩き、
顔を上げると、オモニが家の前で立っている、
というシーンだ。
その後、リエが「胸がいっぱいでも、どんどん食べて」と
言って、家族の食卓が始まる。
「日本のビール、うまい」というソンホの言葉に、
日本に帰ってきた実感がこもっているのかな。
重いテーマを扱う映画にあって、
食べたり飲んだりするシーンは、ふっと緊張がゆるむ。
本人たちにはどうしようもない事情の中で、
その憤りを兄も妹も自分にぶつける。
ソンホは自分の腕を強くつかみ、胸をかきむしり、
リエはグルグル回ったりする。
それだけに一度だけ、ソンホが激昂するシーンが胸を打つ。
この映画がまったくのフィクションではなく、
実話にもとづいているというのが、ズシンとくる。
数々の映画賞を受賞した、俳優たちも演じるというより、その人物を生きているような。
監督が大阪出身とのことで、
大阪弁バージョンだったら、また印象が変わるだろうなと思った。
舞台を東京にすることで、少し客観的に見ることができるのかも、
と大阪に住む者として感じた。