なずなノート

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『ラブレス』(桜木紫乃著/新潮社)流れのままに生きる女の一生

 大河ドラマとかでは決して描かれない、

でも濃密でボリュームたっぷりな、女の人生を紡ぐ小説。

 

 『ラブレス』=愛のない、北海道の開拓小屋で生まれ育った百合江は、

中学を卒業後すぐ奉公に出され、昭和26年、16歳で旅芸人の一座に飛び込む。

 そこから始まる波乱の、というには波がてんこ盛りの

ローリングストーンな生涯。

 

風まかせに「らせん階段を上下するのか、水平に歩みを進めるのか」と生きる百合江を軸に、

対照的にしっかり者で理髪師としても経営者としても才覚ある妹の里実、

それぞれの娘たちを通して、親子三代にわたる女性の生きざまが描かれる。

 

裏切りや借金の肩代わり、陵辱、家族の問題……。

これでもかこれでもかと、不幸がどんどん続く。

彼女たちと関わる男性がたくさん登場するが、

出てくる男たちは皆、情けない。

 

それでも「まるで双六だ。サイコロを振って升目を進んでは、

振り出しに戻って」百合江は、また歩き出す。

どんなに不幸に見えるときも、みんなそのときそのときで精一杯だった。

幸不幸など、過ぎ去ってから思い出す遠くの景色なのかもしれない

と、つぶやく。

 

 百合江の子ども時代の昭和十年代から21世紀の現在に近いあたりまで、

時間と空間をあちこち飛びまわるから、頭が少々混乱してしまう。

 

でも、あることを思いついた。

「物語を通して、一つの絵巻物」なのかもしれない。

そう考えると納得。

 

時空をひょいと飛びこえて、それぞれの場面が描かれていて、

かえって一つ一つの場面が鮮やかに印象づけられるのかも。

 

 仲茶安別の凹んだ土地にある、貧しい開拓小屋の生家や、

硫黄のにおい漂う川沿いのまち、釧路のホテル最上階にあるレストランからの眺めなど、

行ったことのない土地の様子が、見てきたように目に浮かぶ。

 

 社会的に無名でも、お金がなくても、はたから見ると不幸そうでも

百合江は誠実に生きてきたんだと思う。

 

いろいろありましたけど、自分のこと、世界一幸せな人間だと思っています」。

自分に言い聞かせるところもあるかもしれないけれど、

そんなふうに言える、しなやかさと強さ。

 

300ページ近くある物語を、三晩で読了。

一日目はあいさつ程度に30〜40ページ、

二日目は止まらなくなって200ページ強。

ほんとは最後まで読める勢いだったけど、読み終えるのが惜しくて

「終章」だけを残してストップ。

三日目で読み終えた。

 

真夜中に読み進めると、この本に描かれる

昭和の世界にどっぷり浸れたのも不思議な感覚だった。

 

なお、太字は『ラブレス』から引用した。