映画『ピーター・ブルックの世界一受けたいお稽古』
5台の隠しカメラで撮影された映像を見ていると、
神聖な時間をのぞき見しているような静かな高揚感を覚えた。
ピーター・ブルックは「現代演劇界の神様」とされる演出家。
彼のもとにあらゆる国の俳優やミュージシャンが集まり、
2週間にわたり開かれたワークショップの様子を綴った
ドキュメンタリー映画。
監督は息子でドキュメンタリー映画監督のサイモン・ブルック。
床にカーペットが敷かれただけの空間で
架空のロープを「綱渡り」するという
単純な動きから、俳優の技量だけでなく
身体が生命を宿し想像力と一体になっているかまで表現されるという。
名だたる俳優たちも身ひとつで挑み、それを見たピーター・ブルックが
その場にいる人にまっすぐ届くような言葉で応える。
撮影時で御年87歳の彼は、
杖をついたおじいちゃんで慈悲ぶかいお顔が仏さまのよう。
紡がれる言葉は問答みたいで理解するまで至らないけれど、
一つだけご紹介。
「砂時計を見てごらん。
小さな砂が一粒ずつ上から下に落ちてくる。
その一粒に『時』の意味を感じとる。
中世の人はこれを見て
『人生は短く、無駄にできない』ことに気づいてきた」。
舞台に立ったり演劇を演出することなどまるでなくても、
なんだか興味ぶかい。
表現について考える機会がない人にも、
自分の足で立つ根っこの大切さを教えてくれるような。
いや、教えるというより示唆して、自分で学ぶための
きっかけを与えてくれるような感じ。
終映後、小さな映画館には文庫本サイズのパンフレットを求める人の列ができた。
ピーター・ブルックの言葉を反すうしたい人が多いのだろう、私を含めて。
2015年1月、元町映画館で鑑賞。