なずなノート

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映画「ぼくたちの家族」たとえややこしくても家族

 ふだんは考えようとしない、家族のことを思い浮かべる時間が生まれた。
そのきっかけとなっただけでも、この映画を見てよかったと思う。

郊外の一軒家に暮らす若菜玲子(原田美枝子)は、会社を経する夫(長塚京三)と
息子二人の四人家族。
息子たちはすでに家を出ている。
長男の浩介(妻夫木聡)は会社員で結婚していてもうすぐ第一子が生まれる予定、
次男の俊平(池松壮亮)は大学生だ。

ある日、物忘れのような症状が続く玲子に「脳腫瘍」の疑いが浮上し、
余命一週間という可能性と、治療の手だてがないことが
医師から告げられる。

そこで、それぞれ内に葛藤を抱えながらも若菜家の男三人、
力をあわせて母を助けるべく「悪あがき」に打って出ることに。
息子たちは母を治療してくれるところをもとめて、
手当たり次第、病院をまわり始める。

闘病する玲子が登場するシーンは少なく、
多くは母・妻の危機を救うべく奮闘する若菜家の男たちが描かれる。
家族を喪うかもしれない局面にあって、
三人とも泣き叫んだり暴れたりはしない。それでも動揺は細部にあらわれる。

車でさっと買いに行けばいいものを
「昼めし、何がいいかなって思って。俺、買ってくるから」と、
近くに店はないのに全速力で走る父。

父の慌てぶりを見てあきれる浩介だって、
車庫入れを誤り自転車にぶつけてしまう。
いっぱいいっぱいの時って、そんなものなのかもしれない。

家族のほころびのあれこれを一身に背負おうとして大変になっている
浩介の状況を知ってか知らずか、
母は「こんな時こそ笑おうよ」と、にっこり。

一方で母に金を無心し、大学を留年している俊平は、
ダメ男っぽいけど本音だけを話し、記憶がもうろうとする母も心を開いて話してくれる。

誰か知らない人にでも話すふうに、玲子が心の内を話すシーンが印象的だ。

会社社長の夫との何不自由ない生活に見えて、実は借金だらけなこと、
一家の大黒柱とのはたらきを夫は全然してくれないこと、
郊外に住むなんてうんざり。
長男の浩介が学生の頃に引きこもりになってキツかったこと……。
それでも家族のことは、ほうっておけないと。

病気になって初めて明かされる母の本音。
誰に気がねすることなく胸の内を語る玲子は少女のようにあどけない。
夫、浩介、俊平の三人は、ただじっとそれを聞く。

ここに家族の姿があるのかなと受け取った。
優れているとか、うまくいってる時だけじゃなく、
出来が悪くても情けなくても、何とはなしに愛しく感じられる家族ってふしぎだ。

石井裕也監督・脚本
2014年7月、塚口サンサン劇場で鑑賞。