黒澤明監督の映画『生きる』
ある用件で役所に問い合わせたひとが、たらい回しにされたという話を最近聞いた。
それで思い出したのが黒澤明監督作品の『生きる』。
1952年(昭和27)に公開、今から63年ほど前に製作された映画だ。
この映画の味わいどころは多々あるけれど、ストーリーはこんな感じ。
初老の渡辺勘治は、市役所で市民課長を務める。
30年間無欠勤、仕事への情熱はずいぶん前に失い、
回ってきた書類にハンコを捺すだけ。
「彼は時間をつぶしているだけだ。
彼には生きた時間がない。
つまり彼は生きているとはいえない」とナレーションにあるとおり
単調な日々をおくる。
そんなものだから、地域の主婦たちが「子どもが安全に遊べる公園がほしい」と
詰め寄る必死の陳情にもまったく反応しない。
主婦たちは市民課、土木課、公園課、下水課、総務課など
たらい回しにされた挙げ句、ぐるっと一周回り、
最初に訪れた課に戻されたりする。
そんな状況が一変。
病院でレントゲン検査を受けた渡辺は死期が近いことを悟ると、
飲みに歩いたりとやけっぱちになったりもするが、
「公園を作ること」を自分の最期の仕事と定め、奔走する。
ほかの課から相手にされなくても何度も訪れ説得し、成就させる。
渡辺が他界した後も公園には子どもたちの声が響く。
60年以上前の映画にも今に通じるところがあり、少し距離が縮まったように感じた。
そうそう、冒頭のたらい回しの件は
一周することなく、何件かあたった後、
担当部署に連絡がついたのだという。